2013年9月17日火曜日

オランダ最高裁イラスト児童ポルノ事件判例

ECLI:NL:HR:2013:BY9719欧州判例法識別番号

審級
オランダ最高裁判所
判決年月日
20130312
公開年月日
20130312
事件番号
11/04168 
形式的関係
意見書: ECLI:NL:PHR:2013:BY9719 
ECLI:NL:GHSHE:2011:BQ1179の破棄を求める上告における承認/確認 
法分野
刑法 
特徴
上告 
内容表示
検事局の上告仮想児童ポルノ刑法第240b条(旧)第1項、児童売買、児童売春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書第2条の冒頭の言葉及びc。「関与しているように見える」。写実的な画像が実写と区別できないという意味において、実在しない児童の写実的な画像も刑法第240b条の罰則規定に含まれるという高等裁判所の判断は正しい。告発の項目5から8に記述されている画像が、この意味において写実的と見なすことはできないという事実判断は、描写されている人物が「実在する児童」ではなく、「(児童を含む)平均的な観客にとって[……]それが加工された画像であることが直ちに明らかである」という、反論の余地のない確認も考慮すれば、理解できないわけではない。該当する国際的諸規則は、他の判決にはつながらない。上述の選択議定書に述べられている「児童ポルノ」の定義は、実在しない児童の写実的でない画像に対してもあてはまるわけではない。
出典
オランダ最高裁オフィシャルサイト (Rechtspraak.nl)
『今週の判決 (RvdW = Rechtspraak van de Week)』、2013年、第421
『オランダ法律家雑誌 (NJB = Nederlands Juristenblad)』、2013年、第732
『刑法ニュースレター (NS = Nieuwsbrief Strafrecht)』、2013年、第171 




判決
20130312
刑事部
S 11/04168
AJ
[被告名]、[出生地名]出身、1974年[〇月〇日]生まれ
に対する刑事事件20/001417-10号における20110414日のスヘルトーヘンボス (s-Hertogenbosch) 高等裁判所判決の破棄を求める上告申立てに対するオランダ最高裁判所判決

1. 上告審
 本上告は高等裁判所検事局検事によって開始された。高等裁判所検事局検事は、文書により上告理由を提出した。その文書は本判決に添付され、その一部をなしている。
 最高裁検事局検事フェッリンガ (Vellinga) は、上告の棄却を勧告した。


2. 上告に関する判断

2.1. 刑法第240b条(旧)第1項の意味において、明らかにまだ18歳に達していない1人又は複数の人物が性的行為に「関与しているように見える」ことが問題になることを法的に、かつ説得力を持って証明できないという高等裁判所の判決に対して、本上告は、法律上の論点に基づいて異議を唱えている。

2.2.1. 被告に対しては、以下が告発の対象となった。
 「被告は200865日から2009122日までの期間の、又は、ほぼその期間の、1つ、又は複数の時点において、ファルケンスヴァールト (Valkenswaard) で、いずれにせよオランダにおいて、明らかにまだ18歳に達していない、1人又は複数の人物が(繰り返し)関与しているか、又は関与しているように見える性的行為の1つ又は複数の画像を含む画像及び/又はデータ記憶媒体(コンピューターの(1個又は複数個の)ハードディスク及び/又は(コンピューターの)ファイル、及び/又はフロッピーディスク、及び/又はDVD、及び/又はCD-ROM、及び/又はビデオテープ)を1回又は複数回、
(繰り返し)頒布し、かつ/又は制作し、かつ/又は公然と陳列し、かつ/又は輸入し、かつ/又は通過させ、かつ/又は輸出し、かつ/又は所持したものであるが、
それらは、すなわち、明らかにまだ18歳に達しておらず、自分自身及び/又は1人又は複数の他の人物との性的行為を行っており、かつ/又は行わせており、その(露出された)陰部を強調して、かつ/又は挑発的に描かれ、かつ/又はこれが明らかに(同時に)性的刺激を引き起こすようなやり方で、ポーズを取っており、かつ/又は描かれている1人又は複数の(裸の、及び/又は部分的に裸の)人物の(電子的)画像/写真/映画であり、
かつ/又は、その性的行為は特に以下から成り立っていたが、それらは、
[……]
(5)推定9歳から13歳の裸の少女2人が1人の裸の男性の前に跪いて座り、そのうちの短く細いお下げ髪をした少女がその男性の陰茎を口にくわえ、かつ、その男性が自分の左腕をその少女の頭の上に置いている線描画及び/又は画像(図747ページに述べられている作品02)及び/又は
(6)推定9歳から13歳の少女が成人男性の前にしゃがみ込み、その際、その男性の勃起した陰茎がその少女の口の近くに保持され、かつ、その少女が自分の右手を自分の膣部に置いている線描画及び/又は画像(図847ページに述べられている作品04)及び/又は
(7)成人男女が性交をしており、その際、男性が推定9歳から15歳の少年のほうを見ており、また、その少年は、半ばは座り/半ばは横たわって自分が勃起するのを見ており、その際、他の未成年の人物がその少年の近くに跪いて座り、その少年に口淫をしている線描画及び/又は画像(図947ページに述べられている作品09-01)及び/又は
(8)男性/少年の広げた両脚と睾丸を示しており、かつ、推定8歳から12歳の裸の少女が長いすに横たわり、その際、少女は自分の右の肘で体を支え、かつ、少女の左手は膣部に置かれている線描画又は画像であり、その際、吹き出しに書かれている文は、『あーっ (ooooh)! シンディー、あれを見て (Look at that, Cindy)! マイキーのおちんちんが完全に大きく、硬くなったわ (Mikeys pee-pee got all big and stiff)!』というものであり、その少女のそばには第2の女性/少女が描かれ、彼女は両脚を開いて仰向けに横たわり、その際、吹き出しに書かれている文は、『私もそれを見るのが好きよ (I like looking at it too)! それが小刻みに動き、跳ね返る様子をごらんなさい (Look how it wiggles and bounces around)!』(図1047ページに述べられている作品1109401969)というものであった。」

2.2.2. 高等裁判所は、項目5から8において告発されているような仮想児童ポルノ画像の所持について、被告に無罪を言い渡した。高等裁判所は、そのために以下を考慮した。

1. 第一審の裁判官
 地方裁判所が自己の知覚によって確認したところによれば、これがまだ18歳に達していない誰かが「関与しているように見える」という構成部分を満たしていないという理由で、仮想児童ポルノ画像の所持について、第一審の裁判官は被告に無罪を言い渡した。これは、この構成部分を刑法典第240b条に導入する際に立法者が意図していた通りである。第一審の裁判官は、それが写実的な画像でないことが、これらの加工された電子的画像の平均的知覚者にとっては直ちに明らかであるに違いないと判断した。

2. 検事局の要求
 告発の項目5から8に挙げられている(児童ポルノグラフィーの仮想イメージである)画像を所持していたことについて、第一審の裁判官が不当にも被告に無罪を言い渡したという理由で、高等裁判所検事局検事は、控訴審において、控訴対象の地裁判決を破棄することを要求した。
 高等裁判所検事局検事は、第一審の裁判官が、仮想画像の所持の可罰性に関する判断において過度に限定された基準を適用したという立場に立ち、そのために基本的に以下を主張した。
 2002年における「関与しているように見える」という構成要素の刑法典第240b条への導入という立法経緯からは、立法者が当時、仮想児童ポルノの処罰を写実的で、実写と区別できない画像(実在する児童の写真モンタージュ、すなわち「モーフィング」)に限定することを意図しており、 その際、あまりに明白な「絵画、線描画、一コマ漫画及び続き漫画」を処罰対象から除外しようとしたことは明らかである。立法者にとっては、人間精神の創造的表現が不必要に限定されず、プライバシーと表現の自由に対する基本権が侵害されないことが重要であった。仮想児童ポルノグラフィーの処罰は、そのような仮想児童ポルノグラフィーに関して検事局の立証する立場を強めようとする意図によって動機づけられているのみならず、立法者は同時に児童の保護を拡大することも意図していた。すなわち、児童の性的搾取からの保護、及び児童の性的行為に対する参加への促し又は誘惑からの保護である。社会的にも刑法上の処罰を求める声がますます大きく聞かれるようになっている。検事局の判断によれば、まさに「広範な保護の目的」を考慮して、実写であることが明白ではない画像にも禁止は同時に及ぼされるべきであり、これは、実際また2007年と2010年の児童ポルノグラフィーに関する訓令において確認されている。
 検事局によれば、この場合、実際に創造的かつ芸術的な画像のみを禁止対象から除外すべきてある。
 当該の仮想画像は、検事局の見解によれば、創造的な、又は芸術的な表現の必要から生じたものではなく、未成年者と成人間の性的接触を写実的方法で再現することのみを意図している。従って、上述の考察を考慮すれば、告発された仮想画像(項目5から8)の所持に対しても同様に有罪判決を下すべきである。

3. 弁護の立場
 弁護は――簡単に言えば――第一審の裁判官がこれに関して行った判断に従っている。

4. 高等裁判所による検討
 裁判記録の内容から、特に風俗犯罪担当刑事ダーメン (Damen) が作成した調書からは、告発の項目第5番から第8番に挙げられている画像が、特に、性的行為に関与している未成年者に見える人物、児童を示している仮想画像であるという結論が導き出される。
 高等裁判所は、控訴審において上述の画像を示し、その際、それが、ここで実際に、告発に収録されている記述と一致している、完全に仮想的な児童ポルノ画像であることを認めた。
 間違いなく未成年であると判断しうる人物を含む、画像上に認められる人物は、実在する児童でもなく、また、その画像に、実在する児童の写真が使用されているわけでもない。それらの画像は、完全に電子的にコンピューター上で制作され、人工的な性格を持っている。
 従って、高等裁判所は、上述の画像に関して、性的行為に刑法典第240b条の意味において明らかにまだ18歳に達していない1人またはそれ以上の人物が「関与しているように見える」ことが問題であるかどうかを問われていると考えている。
 立法経緯からは、立法者が「関与しているように見える」という構成部分を追加することにより 20021001日発効)、刑法第240b条の範囲を同時に仮想児童ポルノにまで広げようとしたことは明らかである。修正された条項は、この追加によって3つの事例を考慮している。つまり、(1)実在する児童の画像、(2)児童のように見える実在する人物の画像、(3)実在しない児童の写実的な画像である。
 この拡張の背景は、児童ポルノ制作への関与から児童を保護すべきであるということの他に、児童を性的行為へ参加するように促すか又は誘惑するために用いられうる行為、又は児童の性的虐待を促進する下位文化の一部をなすことになりうる行為からも児童を守るべきであるということである。従って、実在の児童が関与していたかどうかは、もはや重要ではない。この保護は、実写児童ポルノ画像の存在を許容すべきでないことのみならず、実写されたものとして流通している画像の存在も許容すべきでないことも要求している。
 さらに、立法経緯からは、立法者が仮想児童ポルノの処罰範囲の拡大を実在の児童が関与しているように見える、性的行動の写実的な画像に限定しようとしていたことも明らかである。これは、写実的でない、加工された画像であることが直ちに明らかであるような画像を所持していることが、刑法第240b条の範囲に含まれないことを意味している。というのも、そのためには、その画像が実写されているように見える児童ポルノであると考えられることが必要であるからである。
 立法経緯から明らかなように、刑法第240b条における出発点は、実写されているか、又は、実写されたものとして流通しうる写実的な画像である。線描画、絵画、またはコンピューター・アニメーションは、一見しただけでは実在する児童の画像と区別できないのでない限り、それには該当しない。
 児童ポルノグラフィーに対する刑法上の処罰を求める声が社会的にますます大きくなったにもかかわらず、20021001日に「関与しているように見える」という構成要素が導入されて以来、立法者の見解が変更されたとは、高等裁判所は判断しなかった。
 検事局の主張とは異なり、上に述べたことから高等裁判所は、立法者が刑法第240b条を仮想画像の全形式について拡張することを意図したわけではなく、実写されたものとして流通しうる仮想の写実的な画像のみをこれに含めようとしたという結論を引き出している。従って、それが写実的でない、電子的に加工された画像であることが直ちに明らかであるような画像は、刑法典第240b条の範囲に含まれない。
 控訴対象となっている判決の4ページに地方裁判所が収録しているような画像の記述の場合、高等裁判所の記述が、すべての細部においてそれと一致しているわけではないにしても、高等裁判所は、(児童を含む)平均的観客にとって、項目第5番から第8番までにおいて告発されているような仮想画像の場合、写実的ではない、加工された画像であることは直ちに明らかであるという、地方裁判所の結論に賛成している。これらの画像の道徳的内容は、この点で決定的ではありえない。
 こういった様々な理由で、高等裁判所の判断によれば、上述の仮想画像に関して、刑法典第240b条の意味において明らかにまだ18歳に達していない1人またはそれ以上の人物が性的行為に「関与しているように見える」と言えるかどうかは、法的に証明されていない。
 従って、被告には、告発されている事実、すなわち、告発の項目5から8に挙げられている仮想画像に関しては、部分的に無罪が言い渡されるべきである。」

2.3.1. 刑法第240b条第1項は、告発の時点では、以下の通りであった。
 「明らかにまだ18歳に達していない者が関与しているか、関与しているように見える性的行為の画像――または画像を含むデータ記憶媒体――を頒布し、公然と陳列し、制作し、輸入し、通過させ、輸出し、又は所持する者は、最高4年間の拘禁または第5範疇の罰金によって罰せられる。」

2.3.2. 児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(この議定書はオランダでは20050923日に発効した)の第2条、冒頭の言葉及びc(ニューヨーク、2000525日、『論文雑誌 (Trb. = Tractatenblad)』、2000年、第63; 2001年、第130; 2005年、第282; 2006年、第250; 2011年、第31号)には、次のように言われている。
 「この議定書の適用上 (For the purpose of the present Protocol)
 [……]
c)「『児童ポルノ』とは、現実の若しくは擬似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう (Child pornography means any representation, by whatever means, of a child engaged in real or simulated explicit sexual activities or any representation of the sexual parts of a child for primarily sexual purposes)。」

2.4. 刑法第240b条(旧)第1項の成立経緯には、特に以下が含まれている。
 「法の制定において刑法第240b条の範囲は仮想児童ポルノに拡張される。これは『ように見える』という文言を付け加えることにより行われる。修正された条項によって、この場合、3つの事例が考慮されるであろう。つまり、(1)実在する児童の画像、(2)児童のように見える実在する人物の画像、(3)実在しない児童の写実的な画像である。この3つの範疇は、サイバー犯罪に関する条約の第9条第2項にも挙げられている。(a)性的にあからさまな行為を行う未成年者 (a minor engaged in sexually explicit conduct)(b)性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者 (a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct)(c)性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像 (realistic images representing a minor engaged in sexually explicit conduct)。同じ区別が、既に述べた児童の性的搾取及び児童ポルノグラフィーに反対する欧州評議会の枠組み決議案の第1条項目bに収録されている。
 第1の事例は、直接、児童を性的暴力または虐待から保護することに向けられている。第2と第3の事例は、児童を性的行為に参加するように促すか、又は誘惑するために用いられうる行為及び児童の性的虐待を促進する下位文化の一部をなすことになりうる行為から児童を守ることを考慮している。児童ポルノのこの2つの事例の処罰は、児童ポルノの販売を促進する市場に対して向けられている。
 条約も枠組み決議案も、処罰除外の可能性を定めている。
 児童のように見える実在する人物の児童ポルノ画像及び実在しない児童の写実的なポルノ画像の制作等の処罰に際しては、検事局は、実在する児童が実際に関与していることを証明する必要はない。描かれている人物が実在する児童のように見えることを疎明するだけで十分である。
 [……]
 性的虐待から児童を保護するためは、実写児童ポルノ画像の存在を認めるべきでないことのみならず、実写されたものとして流通している画像の存在を認めるべきでないことも要求されている。というのも、このような資料は、実在する児童の虐待を写実的に表すことを目的としているからである。児童ポルノのための市場を有する下位文化の普及を促進するがゆえに、それは有害である。
 芸術的な仮想児童ポルノに対する例外を設けることは、必要でも望ましいことでもない。必要でない理由は、芸術的である仮想表現は、通常、写実的印象を与えないからである。望ましくない理由は、たとえ写実的仮想ポルノ画像に芸術性が認められるとしても、そのせいでそこから罰すべき性格が奪われることはないからである。」(下院議事録関係資料 (Kamerstukken II)20012002年、27 745、第6番、報告による覚書、89ページ)
 「仮想児童ポルノの処罰案においては、明らかにまだ18歳に達していない人物が関与しているか、または関与しているように見える性的行為の画像――または画像を含むデータ記憶媒体――が問題になっている。このような表現には、ポルノグラフィーに加工された、児童の写実的画像も含まれる。その中には、18歳以上の人物の画像に基づく、ポルノグラフィーに加工された児童の画像も含まれている。仮想児童ポルノグラフィーが処罰の対象になるかどうかについては、それがどのような方法で成立したのかということは重要ではない。結果のみが重要である。つまり、それがまさに実在しているように見える児童の画像であることである。刑法第240b条は、成人しているように見える人物の(仮想)画像を考慮していない。」(『下院議事録関係資料 (Kamerstukken II)』、20012002年、27 745、第6番、報告による覚書、12ページ)
 「仮想児童ポルノグラフィーの処罰案には、実在しない児童が関与している性的行為の写実的な画像が含まれている。その画像は、実在する児童の画像のように見える。その画像は、実写されたものと区別できない。実写児童ポルノの場合、その児童が実際に性的に虐待されたことは必要条件ではない。これが意味しているのは、仮想児童ポルノの場合、性的に虐待されているかのような印象が常に喚起されていなければならないということは、必要ではないということである。明らかにまだ18歳ではない人物が関与しているか、または関与しているように見える性的行為の画像であることを証明することは、検事局の責任である。具体的な事例において、描かれている人物が実在する児童であるか、児童のように見える実在する人物であるか、または実在しない人物であるのかがはっきりしないとすれば、検事局は、関与していることが問題になっているのか、関与しているように見えることが問題になっているのかは、未決定のままにするであろう。」(『下院議事録関係資料 (Kamerstukken II)』、20012002年、27 745、第6番、報告に関する覚書、16ページ)
 「キリスト教民主アピール (CDA) 会派の所属議員は、続き漫画または一コマ漫画形式の暴力的な児童ポルノが修正された刑法第240b条の範囲に含まれるかどうか質問した。
 第240b条修正案は、(児童が関与しているか関与しているように見える性的行為の)画像という概念を修正するものではない。このことに関しては、児童の画像という概念の解釈が問題になる。これには3種類の画像が含まれている。(1)実在する児童の画像、(2)児童のように見える実在する人物の画像、(3)実在しない児童の写実的な画像である。共通する特徴は、実在する人物が描かれているからであろうと、その画像がまさに実写されているように見えるからであろうと、その画像が実写されているという印象を与えることである。一般には、写真または映画のみに、現実をそのまま再現する能力があり、またそれらはそのことを目的としている。連続漫画又は一コマ漫画形式の(暴力的な)児童ポルノには、実写されているという特徴がなく、また、児童の性的虐待を実写によって再現することを目的としていない。当該画像は、その制作者の想像力の産物である。それにもかかわらず、児童ポルノに関する続き漫画または一コマ漫画の制作が、児童の性的虐待に基づいているのであれば、児童の性的虐待に関する罰則規定に基づいてその制作者に対して法的措置を取ることができる。
 [……]
 仮想児童ポルノに関する処罰によって、実写児童ポルノに関する既存の処罰は補完される。仮想児童ポルノは、実写児童ポルノと見分けることはできず、またそれと区別される意図を持たない。仮想児童ポルノの処罰を正当化する根拠は、実在する児童が児童ポルノの制作に使用されているという証拠がそれ以上必要とされないことが望ましい点にある。というのは、利用しうる画像資料を手がかりにして、その証拠を提供することはできないからである。それと並んで、正当化の根拠は、児童を性的交渉に参加するように促すか、又は誘惑するために用いられうる行為から、又は児童の性的虐待を促進する下位文化の一部をなすことになりうる行為から児童を保護する点にある。」(『上院議事録関係資料 (Kamerstukken I)』、2001年~2002年、27 745299b、答弁覚書、23ページ)

2.5. 写実的な画像が実写と区別できないという意味において、刑法第240b条の犯罪規定における「関与しているように見える」という構成部分は、実在しない児童の写実的な画像も刑法第240b条の罰則規定に含まれることを意味していると高等裁判所は判断した。2.4に挙げた刑法240b条の立法経緯も考慮すれば、この判断は正しい。告発の項目5から8に記述されている画像がこの意味において写実的であると見なすことができないということは、本質的に事実である。さらに、描かれている人物が「実在する児童ではない」という、また、「(児童を含む)平均的観客にとって[……]それが加工された画像であることが直ちに明らかである」という高等裁判所の――上告によって否定されていない――確認も考慮すれば、この判断は理解できないわけではない。

2.6. 該当する――最高裁判所検事局検事が意見書の9に引用している――国際的諸規則は、他の判断にはつながらない。特に、成立経緯からも、選択議定書の文言からも、選択議定書の第2cに挙げられている「児童ポルノ」の定義が、実在しない児童の写実的でない画像にも当てはまるという結論を導くことはできない。

2.7. 上告は棄却される。


3. 判決
 最高裁判所は上告を棄却する。

 本判決を申し渡したのは、裁判長 W. A. M. ファン・スヘンデル (van Schendel) 副長官、裁判官 B. C. デ・サフォルニン・ローマン (de Savornin Lohman)Y. ビュリューマ (Buruma)J. ヴォルテル (Wortel)、及び V. ファン・デン・ブリンク (van den Brink) であり、書記官 S. P. バッケル (Bakker) が同席し、宣告は20130312日に行われた。



■ 原文

注釈:
オランダ刑法典第240b 条の2010 年改正について

1.新旧条文の比較(1 項のみ)
<改正前の条文>
Met gevangenisstraf van ten hoogste vier jaren of geldboete van de vijfde categorie wordt gestraft degene die een afbeelding – of een gegevensdrager, bevattende een afbeelding - van een seksuele gedraging, waarbij iemand die kennelijk de leeftijd van achttien jaar nog niet heeft bereikt, is betrokken of schijnbaar is betrokken, verspreidt, openlijk tentoonstelt, vervaardigt, invoert, doorvoert, uitvoert of in bezit heeft.
(日本語訳)
明らかにまだ18 歳に達していない者が関与しているか,関与しているように見える性的行為の画像――または画像を含むデータ記憶媒体――を頒布し,公然と陳列し,制作し,輸入し,通過させ,輸出し,又は所持する者は,最高4 年間の拘禁または第5 範疇の罰金によって罰せられる。
*訳は,http://ja.scribd.com/doc/167287635/オランダ判決-jp を参照。
<改正後の条文(赤字が変更部分)>
Met gevangenisstraf van ten hoogste vier jaren of geldboete van de vijfde categorie wordt gestraft degene die een afbeelding - of een gegevensdrager, bevattende een afbeelding - van een seksuele gedraging, waarbij iemand die kennelijk de leeftijd van achttien jaar nog niet heeft bereikt, is betrokken of schijnbaar is betrokken, verspreidt, aanbiedt, openlijk tentoonstelt, vervaardigt, invoert, doorvoert, uitvoert, verwerft, in bezit heeft of zich door middel van een geautomatiseerd werk of met gebruikmaking van een communicatiedienst de toegang daartoe verschaft.
(日本語訳)
明らかにまだ18 歳に達していない者が関与しているか,関与しているように見える性的行為の画像――または画像を含むデータ記憶媒体――を頒布し,提供し,公然と陳列し,制作し,輸入し,通過させ,輸出し,取得し,所持し,又は電子計算機を用いるか電気通信の利用によってそこへアクセスする者は,最高4 年間の拘禁または第5 範疇の罰金によって罰せられる。
*現行条文:http://wetten.overheid.nl/BWBR0001854/TweedeBoek/TitelXIV/Artikel240b/

2.2010 年改正による変更点と影響
・児童ポルノの定義及び法定刑に変更なし。
・提供・取得・インターネット等によるアクセス行為(リンクをクリックする行為等)が新たに処罰対象として加えられた。
・2010 年改正による規制強化には,創作物規制に関するものは含まれておらず,オランダ最高裁2013 年3 月12 日判決の結論に影響を与えるものではないと思われる。




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