2013年9月21日土曜日

韓国アチョン法:バイブルブラック事件判例


(『バイブルブラック』より)


水原地方法院安山支院

      決  定

2013.8.12
水原地方法院安山支院
法院主事 イ・ファソン

事件  2013チョギ 509違憲審判提請
    20122192
    児童・青少年の性保護に関する法律違反
       (わいせつ物制作・配布等)
被告人 ハン
    住居  平沢市
    登録基準地  平沢市
申請人 被告人の弁護人 法務法人イゴン 
                        担当弁護士 ヤン・ホンソク


主  文

 被告人に対する本法院2012ゴ正2192児童・青少年の性保護に関する法律等違反事件に関し、旧児童・青少年の性保護に関する法律(法律第11572号で改定される前のもの)第8条第4項、第2条第5号の違憲の有無に関する審判を提請する。



理  由

1.事件の概要
イ.本事件の公訴事実は、「申請人が2012630日頃被疑者の住居地である平沢市      においてインターネットファイル共有サイトであるエイドライブに申請人の父ハン   名義のIDs   」(ニックネーム「s   」)で接続した後、制服を着た女子学生と男子学生の主人公たちが服を脱いで露骨な性関係を行う内容のわいせつアニメーション動画ファイルを「[19禁][北米noモザイク]バイブルブラックお姉さんHD」という題名でアップロードし、他の人々がダウンロードして見ることができるように流布した」というものである。
 検察は、上記の映像物が旧児童・青少年の性保護に関する法律(法律第11572号で改定される前のもの、以下「本事件法律」とする)第2条第5号の定める「児童青少年利用わいせつ物」に該当すると判断し、同法律第8条第4項を適用して公訴を提起した。申請人は、現在本法院2012ゴ正2192号(以下「本事件本案事件」とする)で裁判を受けている。
 ロ.申請人は、上記の映像物は仮想の人物を登場させた創作物であり、これを実在する児童・青少年が登場する映像物と同様に本事件法律によって処罰することは平等の原則、過剰禁止の原則などに反し、上記の法律の構成要件が刑法上の明確性の原則に反すると主張している。

2.違憲審判提請対象の法律条項および裁判の前提性
イ.違憲審判提請対象は、本事件法律中の第2条第5号および同法第8条第4項(以下「本事件法律条項」という)である。
ロ.違憲審判提請対象である本事件法律および本事件法律条項
  第2条(定義)本法において用いられる用語の定義は次の通りである。
1.「児童・青少年」とは、19歳未満の者をいう。ただし、19歳に達する年度の11日を迎えた者は除く。
2.「児童・青少年対象性犯罪」とは、次の各目のいずれかに該当する罪をいう。
 イ.第7条から第15条までの罪(第8条第5項の罪は除く)
4.「児童・青少年の性を買う行為」とは、児童・青少年、児童・青少年の性を買う行為を斡旋した者または児童・青少年を実質的に保護・監督する者などに金品やその他の財産上の利益、職務・便宜の提供等の対価を提供するか、もしくは約束し、次の各目のいずれかに該当する行為を児童・青少年を対象に行うか、もしくは児童・青少年に行わせることをいう。
イ.性交行為
ロ.口腔・肛門等身体の一部や道具を利用した類似性交行為
ハ.身体の全部または一部を接触・露出する行為であり、一般人の性的羞恥心や嫌悪感を引き起こす行為
ホ.自慰行為
5.「児童・青少年利用わいせつ物」とは、児童・青少年または児童・青少年と認識され得る者または表現物が登場して第4号のいずれかに該当する行為を行うか、もしくはその他の性的行為を行う内容を表現するものであり、フィルム・ビデオ物・ゲーム物またはコンピュータもしくはその他の通信媒体による画像・映像等の形態を取るものをいう。
8条(児童・青少年利用わいせつ物の制作・配布等)
④児童・青少年利用わいせつ物を配布した者または公然と展示もしくは上映した者は3年以下の懲役または2千万ウォン以下の罰金に処する。
ハ.裁判の前提性
 上述した通り、申請人が本事件の構成要件を成す本事件各法律条項の違憲性を争っていることから、本事件法律条項の違憲性の有無は本事件本案事件裁判の結論を異ならせ得るため、本事件の違憲審判提請は、本事件本案事件の前提性を有する。



3.判断
イ.申請人の主張

 申請人は、本事件法律条項中の第2項第5号の「認識され得る」、「表現物」、「その他の性的行為」等の構成要件が曖昧であり、「表現物」に実存の児童・青少年ではない純粋な創作キャラクターを含ませることは罪刑法定主義に違背しており、また本事件法律は、刑法や情報通信網法利用促進および情報保護に関する法律で規制されたわいせつ物の規制に比べて刑量も非常に重く、身上情報の登録および就業制限等の不利益を加えることから、平等の原則、過剰禁止の原則に違背すると主張している。

ロ.過剰禁止の原則の違反についての判断
1)目的の相当性の有無
   立法者は、2011.9.15.法律第11047号により改定しながら、本事件法律条項中の「表現物」を追加し、以前には処罰しなかった実在しない児童が登場する仮想児童ポルノに対する処罰も可能にした。これは仮想児童ポルノが実存の児童に対して直接的な被害がないとしても、児童ポルノ市場の拡大および潜在的児童性愛者の増加に寄与する可能性があり、他の児童に性行為に参加するよう誘惑するか、もしくはそのような行為に対する羞恥心や恐怖を麻痺させる手段として悪用され得るというのが主要な目的であろう。しかし、児童に直接的な被害がない仮想児童ポルノの場合、将来の犯罪発生の可能性または犯罪行為の手段としての悪用の危険は、表現の自由を制限するだけの明白なかつ現存する危険ではなく、実存児童の法益が侵害されるものではないにもかかわらず、単に「児童キャラクター」が登場して性的な行為を行うという理由だけで規制することは、表現の自由に対する重大な制限となる可能性もあるという反対の立場もある。また、米国連邦大法院は2002年のAshcroft v. Free Speech Coalition事件において、「児童性表現物自体はいかなる犯罪の未遂、先導、使嗾または謀議にも至らない。政府は、或る思想または欲求を督励し得る表現と児童性虐待との間の遼遠な関係以上のものは何も示さなかった。さらに、直接的かつ強固な因果関係を示さない以上、政府は児童性表現物が児童性愛者の不法行為を督励するという名分で規制することはできない。」と判示したところがある(パク・キョンシン、「仮想児童ポルノグラフィー規制の危険性」を参照)。すなわち、上記のような議論の過程を鑑みると、本事件法律条項の立法目的は特別な科学的根拠もない憂慮に起因したものであり、その目的が相当であるのか疑問である。立法者のこのような意図は、露出の激しい衣装が女性の性犯罪を発生させるという一部の誤った観念ともそれほど異なるところがないように思われ、性犯罪を予防するために女性の露出の激しい衣装を法的に規制してはならないことと同様に、児童ポルノも立法者の上記のような目的を挙げて規制するには慎重を期す必要がある。

2)比例性の原則
本事件の映像物は、すでに刑法上のわいせつ画像頒布等罪、情報通信網利用促進および情報保護等に関する法律第74条第1項第2号、青少年保護法第50条第1項により処罰され得る。それにもかかわらず、就業の制限、身上情報登録等の過酷な制限がある児青法で加重処罰することが適切であるのかも疑問である。
例えば、身上情報登録の場合、児童青少年対象の性犯罪で有罪判決が確定した者は、管轄警察官署の長に身上情報を提出しなければならず、毎年写真を提出する一方、身上情報が変更された場合にはこれを届け出なければならない。また、女性家族部は身上情報を登録し、20年間保存・管理し、身上情報は犯罪捜査に活用することができる等、個人の自由権に対して相当な制約が加えられている。このような制約のある児青法の規律対象に、実存する児童でないことから児童へのいかなる被害もなく、その非難可能性にも相当な違いがあるものと思われる仮想児童ポルノを含めることが適切な手段であるのかも疑問であるだけでなく、その制約の程度も過剰であるものと思われる。

ハ.罪刑法定主義の原則
  罪刑法定主義の原則は、法律が処罰しようとする行為が何であり、それに対する刑罰がどのようなものであるかを誰もが予見することができ、それにしたがって自らの行為を決定できるように、構成要件を明確に規定することを要求している。刑罰法規の内容が曖昧であるか、もしくは抽象的であることから不明確である場合には、何が禁止された行為であるのかを国民が知り得ず、法を守ることが困難であるだけでなく、犯罪の成立の可否が法官の恣意的な解釈にまかされ、罪刑法定主義により国民の自由と権利を保障しようとする法治主義の理念を実現することができないからである。ゆえに、刑罰条項については明確性の原則が厳格に適用されなければならない(憲裁2010.12.28.2008憲バ157、判例集22-2下、684694を参照)。
  本事件に戻って検討してみると、本事件法律条項中の第2項第5号の「認識され得る」、「表現物」、「その他の性的行為」等の構成要件は非常に曖昧であるか、もしくは抽象的である(ソウル北部地方法院2013チョギ617事件が同一の争点で憲法裁判所に係属中であることから繰り返さない)。
  例えば、「認識され得る」という表現は非常に主観的な価値を含んでおり、捜査機関や法官の恣意的な判断が介入する可能性が非常に大きい。立法者もまたこれを意識して最近「明白に」という構成要件を追加したが、これは上記の構成要件が曖昧であることを自ら認めたのも同然である。あわせて、「明白に」が追加されたからといって上記の構成要件の曖昧さが解決されたわけでもないと考えられる。

ニ.平等の原則
本事件法律条項第2条第5号の「児童青少年利用わいせつ物」は、わいせつ物だけでなく、これに至らない性表現物まで規定しているところ、わいせつ物の配布行為とこれに至らない性表現物の配布行為は、法益の侵害の有無または程度および罪質が顕著に異なるにも関わらず、これを同じ法体系の下に同一に処罰することは平等の原則に反する。
 また、仮想児童ポルノ物の配布行為は、実存する未成年者への法益の侵害がない場合であることから、法益を侵害した実在未成年者の性表現物の配布行為と同じ刑罰で処罰することは平等の原則に反する


4.結論
そうであれば、上記の各法律条項は、主文記載事件裁判の前提となるだけでなく、罪刑法定主義の原則、過剰禁止の原則、平等の原則にそれぞれ違背しており違憲だと疑うだけの理由があるので、被告人の申立を認容することにして主文の通り決定する。

2013. 8. 12.

判事  ムン・ホンジュ 


日本語訳:特定非営利活動法人うぐいすリボン





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