2013年2月12日火曜日

論点解説「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」

京都大学の髙山佳奈子 教授による「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」の論点解説を公開します。うぐいすリボンでは、2013年5月18日(土)に髙山教授の講演会を京都で開催します。


論点解説

「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」

2013年2月11日
髙山 佳奈子(京都大学教授・刑事法学)



1 背景


 「京都府児童ポルノの規制等に関する条例」は、2011年10月14日に、京都府条例第32号として制定され、禁止規定が2012年1月1日、その他の部分が制定日に施行された。本条例制定の背景には、2010年の京都府知事選挙に立候補した山田啓二知事は、「日本で一番厳しい児童ポルノ規制条例」の制定を公約に掲げていたことがある。知事の当選後、児童ポルノ規制条例検討会議が設置され、2008年から京都府青少年健全育成審議会委員を務めていた筆者も、刑事法学者としてメンバーに加わることとなった。この検討会は、座長を土井真一京都大学教授(憲法学)とし、他に、青少年健全育成審議会(当時)座長、情報法、国際人権法、教育、児童福祉を専門とする学者および実務家、報道関係者を含めた全9名で構成された。設置にあたっては、筆者の評価では(自分以外について)国の平均的な審議会よりもはるかに高いレベルの人選が行われた。



 条例制定に向けた作業の前提として、いくつかの問題があった。大きな問題の1つは、知事が「日本で一番厳しい」条例をうち出したものの、すでに奈良県に、2005年7月1日に条例第9号として制定された「子どもを犯罪の被害から守る条例」があり、13歳未満の児童(「子ども」)ポルノの所持等が、30万円以下の罰金または拘留もしくは科料の対象となっていたことである。この条例は2004年に発生した奈良小1女児誘拐殺人事件を受けたものであった。奈良県条例での「ポルノ」の定義は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童買春・児童ポルノ処罰法」とする)と年齢以外はパラレルであり、「衣服の全部又は一部を着けない子どもの姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を含む。すなわち、13歳未満の児童の裸の写真の所持が広く刑事罰の対象となっていた。これは児童買春・児童ポルノ処罰法が処罰の対象から意図的に外した範囲を処罰するものであるため、法律に反し、憲法違反である疑いが強い。したがってこれよりも広い範囲の罰則を京都府で設けるわけには到底いかない。「日本で一番厳しい」とする公約に反しないためには、刑事罰以外の規制をかけるしかなかった。これは結局、行政的な「廃棄命令」制度の導入という形で実現することになる。

 もう1つの主な問題は、法律ではなく「京都府条例」によって児童ポルノを規制する理由が見あたらないことだった。検討会は、京都府における児童ポルノの実態について、実務家からの報告を求めたが、京都府で他府県よりも児童ポルノの問題が深刻であるという事情もなければ、報告されている事件の絶対数が多いわけでもなかった。知事は、世界的に重要な文化都市である京都のあるべき姿を強調していたが、文化的価値だけでは厳しい法規制を及ぼす理由にはならない。この点は結局、京都府条例をパイロット的規制と位置づけることに落ち着いたと理解する。すなわち、児童の保護は、全国的要請であるにとどまらず、全人類的な要請であるといってもよいが、世界レベルの規制や、日本全国に適用される法律の制定にはなお時間がかかる。それらに先がけて、モデルとなるような法制を社会に示していくことに意義がある、という位置づけである。

 以下、条例の主な内容と、議論された点を紹介する。



2 条例のポイント


(1) 適用範囲

本条例の1条は「児童ポルノによる被害をなくすることを目的とする」。大前提となったのは、実在の児童(または元児童)への害が生じる危険のある場合だけを規制対象とすることである。ここにいう「害」には、直接的な性犯罪や、画像等の悪用による侵害が含まれる。実在の児童を被写体としない描写の規制は、表現の自由との関係でデメリットが大きく、メリットはほとんどない。検討会の委員の中には、創作画像であっても児童ポルノは性犯罪を助長する、という人や、現在「18禁」となるような画像は成人に提供することも禁圧すべきだ、という考えの人もいたが、いずれも科学的・法的に認められない立場である。この点で法律家委員らの認識は一致していた。児童買春・児童ポルノ処罰法も、実在児童のみに関する規制を置いている。

 比較法的には、「児童のイメージ」を害する行為をも規制対象とする国があるようであるが、性的表現をすべて禁圧した場合に性犯罪が減少するとは思われない。女性に対する差別・暴力や残酷な強姦事件が多発している地域の中には、性表現が極めて厳格に規制されているところが少なくない。

(2) 定義

「児童ポルノ」等の定義は、児童買春・児童ポルノ処罰法に合わせている(2条)。すなわち、「写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物」であって、18歳未満の「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう(法2条3項)。

 ただし、これだけでは、後で述べる廃棄命令や罰則の対象とはならない。この範囲の児童ポルノについては、所持等の禁止がうたわれているだけであり、違反に対する具体的な制裁はない。もっとも、民法上の効果としては、公序良俗違反で取引などが無効とされる可能性がある(民法90条)。

(3) 有償取得の処罰

便宜上、罰則を廃棄命令より先に紹介する。一定の範囲の児童ポルノにかかわる行為を直接処罰する直罰規定と、廃棄命令違反を処罰する間接罰規定とがあるが、本項では前者を説明する。
 児童買春・児童ポルノ処罰法ではすでに、児童ポルノの提供・製造・公然陳列、提供目的または公然陳列目的の所持(電磁的記録の場合は保管)・運搬・輸出入を処罰対象としている。条例の規制対象は、この趣旨に反することなく、かつ、これとは異なる範囲とする必要がある。法律が児童ポルノの単純所持を処罰せず、これらの行為に罰則の対象を限定している理由は、これらの行為が児童ポルノを拡散させる危険性を有するためである。したがって、児童ポルノが拡散する危険を合理的に基礎づけない単純所持のような行為は、処罰しないのが法律の趣旨であり、条例もそれに沿ったものでなければならない。

 京都府条例では、実在の児童を保護する目的から、「ビジネスとしての児童ポルノが性犯罪を助長する危険の防止」を方針とした。そして、「対償を供与し、又はその供与の約束をすることにより」、13歳未満の児童にかかる児童ポルノのうち「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」または「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」の提供を受ける行為だけを対象とした。

 この限定には2つのポイントがある。1つは、法律上の「児童ポルノ」から13歳以上の児童の描写を除外し、さらに「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を除外することによって、対象を「実在の児童に対する性犯罪の描写」に限ったことである。13歳未満の児童に対しては、児童の同意があったとしても、性交・わいせつ行為が犯罪とされている(法定強姦・強制わいせつ、刑法176条後段・177条後段)ことに対応する。そしてもう1つの点として、「有償取得」への限定がある。有償取得行為は、マーケットへのニーズを意味する。需要は供給を産み出す危険があるとするならば、「実在の児童に対する性犯罪の描写」への需要には性犯罪を惹起するおそれがあることになろう。強姦罪・強制わいせつ罪を手段とする表現の自由は、憲法上も保護すべきでなかろう。ブラックマーケットの助長を禁圧する考え方は、刑法上すでに、盗品関与罪において採用されており(256条2項)、特別法の犯罪収益隠匿(マネーロンダリング)罪の趣旨にも通じる。諸外国の立法にも広く見られるところである。

 有償取得罪の法定刑は1年以下の懲役または50万円以下の罰金で、児童買春・児童ポルノ処罰法の罰則よりは軽い(13条1項)。

(4) 廃棄命令

このように直罰規定の範囲を限定した一方で、条例は廃棄命令の対象範囲をこれよりも広く定めており、廃棄命令違反に対しては30万円以下の罰金を法定刑とする間接罰規定がある(13条2項)。しかも、適用の細則が明らかにされていないことから、検討会では実務家委員からは懸念が示された。条例は「この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める」としている(12条)が、現在までに、立入調査を実施する職員の証明書に関して、「京都府児童ポルノの規制等に関する条例第9条第3項に規定する証明書に関する規則」が条例と同時に定められただけで、実施のための他の規則は制定されていない。

 しかし、廃棄命令の対象も、すべての児童ポルノではない。直罰規定の対象とは異なって13歳以上の児童にかかるものも含まれるが、衣服の「一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」については「性器若しくは肛門を描写したものに限る」としている。知事は、対象に含まれる児童ポルノを所持する者に対し、期限を定めて当該児童ポルノの廃棄や消去等の措置を命じることができる。対象者に聴聞の機会を与えることが必要である(8条)。廃棄命令を出す前提として、立入調査の制度がある。知事は、府職員に、児童ポルノを所持(保管)していると認められる者その他の関係者に対する立入調査を求めさせることができる(9条)。これは行政調査の一種であり、「犯罪捜査のためのものと解してはならない」。つまり強制捜査ではないことに注意を要する。

 児童ポルノにかかわる行為としては、すでに児童買春・児童ポルノ処罰法が提供目的所持などを処罰しているのであるから、製造された児童ポルノを大量に所持しているような場合には、法律に基づく犯罪捜査の要件が満たされることもあると考えられる。では、条例の廃棄命令が想定する適用のターゲットは何か。本条例の目的はあくまで、「児童ポルノによる被害をなくすること」である。直罰規定の目的は、児童に対する性犯罪の防止にあった。廃棄命令の目的も、それよりは広いものの、やはり実害の危険の防止にある。すなわち、一定の範囲の児童ポルノが存在することによって、そこから発生する悪用のおそれの防止である。たとえば、当該児童ポルノを広く流布させる目的がなかったとしても、それが所持・保管されていることによって、被害児童やその関係者に対する嫌がらせや脅迫・強要・恐喝の手段として用いられる危険がある。本制度が典型的に想定したケースは、何らかの形で被写体となってしまった児童やその家族からの申し出があった場合である。廃棄命令は、ここで当該児童ポルノの廃棄や消去を命じることができるようにしたものである。

 もっとも、運用が広がりうる懸念が払拭されているとはいえない。条例は「この条例の適用に当たっては、府民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」とするのみである(6条)。解釈基準としては、「本来の目的」があくまで実害の防止であることから、実害発生の抽象的危険がない場合、および、抽象的危険があっても、行動の自由の利益がこれを上回る場合には、調査や命令が制限されるとする必要がある。


3 若干のコメント


 国際的に見ると、もともと児童ポルノ規制は、ポルノを製造するために児童に対する犯罪が行われることが原因で、強化されてきた。強姦・強制わいせつだけでなく、略取・誘拐や、人身売買、傷害、殺人が、金のために実行されてきた。しかし、これらの犯罪の防止は、それ自体の摘発・処罰によって図られるべきである。児童ポルノを規制するという手段は表現の自由との関係で問題性を有する。京都府条例による、「マーケットの形成により性犯罪を助長する行為の処罰」、および、「被写体となった児童を保護するための廃棄命令」という方法は、土井教授と筆者とが中心となって考え出した苦肉の策である。両名とも、児童ポルノを条例で厳しく規制する意向を積極的に持っていたわけではない。だが、もし筆者らが関与を拒んでいたならば、このような形では決着せず、知事の意向をもとに、さらに広い処罰範囲を持つ条例が制定されていた可能性がある。

 最後に、諸外国の規制と、憲法上の権利とについて付言する。

 主要先進国の中で、児童ポルノの単純所持を処罰していないのはロシアと日本だけだといわれることがあるが、これは不正確な比較である。なぜなら、「児童ポルノ」の範囲が全く異なるからである。日本の児童買春・児童ポルノ処罰法は児童ポルノの定義中に「一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を含めており、これはかなり広い定義だといえる。諸外国の所持規制は、やはりそれ自体として児童虐待を構成するような行為に限定されている。児童の裸の写真を見たり所持したりしているだけで処罰されるわけではない。その観点では、現行刑法上のわいせつ物頒布罪等(175条)の処罰にも問題がある。性表現を提供する行為の規制は、児童に対する行為や、露出などの迷惑行為に限定していくべきであろう。

 憲法上の権利との関係としては、表現の自由、幸福追求権、および各種の職業活動を考察する必要がある。まず、報道やミステリー小説のように、犯罪を内容とする表現も表現の自由の保障を受けることは当然である。犯罪報道やミステリー小説に多く接すると殺人が増えるなどということはないし、性犯罪の描写に接したとしてもそれで性犯罪が増加するわけではない。本条例はあくまで「性犯罪を手段とする」表現の助長を刑事罰の対象としたものである。次いで幸福追求権との関係であるが、日本では16歳の女子は婚姻することができ、婚約者等との間で性的な写真などを撮ることがありうる。幼児期の記録として家族が写真を所持することもあろう。本条例は児童の保護を目的とするので、被写体である本人は違反行為の主体とはならない。関係者による所持等も、憲法の幸福追求権に含まれるときは「正当な理由」があると認められ、廃棄命令の対象とならない。同じく、学術研究、医療行為、犯罪捜査、弁護活動等の正当な業務のために取得する場合は、「正当業務行為」(刑法35条)として違法性が阻却され、所持も「正当な理由」がある範囲では廃棄命令の対象でない。

 (本稿の内容は筆者の個人的見解であり、京都府の立場を代表するものではありません)