2018年10月23日火曜日

コラム:海賊版サイトブロッキングが去って、静止画ダウンロード違法化がやって来る?


山田 奨治 (国際日本文化研究センター教授)



 マンガ等海賊版サイトのブロッキング法制化の議論は、首相官邸に置かれる知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版に関する検討会議」で委員の半数が反対して、報告書をまとめられない事態になった。この検討会は2018年3月19日に菅義偉官房長官が記者会見でブロッキング実施の意思があることをにおわせた後に作られたものであり、官邸を忖度する官僚にとってブロッキングは既定路線であったはずだ。住田孝之事務局長が最後の検討会で「最初から最後まで異例ずくめの会議でした」と振り返ったのは、反対意見を一応聞いたうえでシャンシャンにする会議のはずだったのにということだろう。

報告書に両論を併記してしまうと、政府はそれを根拠にブロッキングの法制化をしてしまいかねない。現政権の政治手法はそういう疑いを抱かせるに十分だ。わたしは、ブロッキングに反対した委員たちに賛同するし、両論併記の報告書を作ることも阻止した強硬姿勢を支持したい。

いや、報告書などまとまっていなくても、政権与党は数にものをいわせて議員立法にしてしまうことだってできる。何といってもブロッキング推進派は官房長官に発言させるほどの力をもっているのだ。3月19日の記者会見で官房長官に上記の発言をさせる質問をしたのが、KADOKAWA傘下のドワンゴの社員だったことと、検討会議でブロッキング法制化を執拗に主張したのがカドカワ社長の川上量生だったことを、よく味わいたい。彼らは筋書きをもって動いていたとみえるし、あるいは議員立法に向けたロビイングを、すでにしているかもしれない。

 そんな勝手な憶測は脇におくことにして、ブロッキング法制化以外の手法に官民をあげて取り組むことには誰も反対していない。そこで改めて浮上してきたのが、違法にアップロードされた静止画をそれと知りながらダウンロードする行為を違法にすること、すなわち静止画ダウンロード違法化である。

静止画ダウンロード違法化は、6月22日の第1回検討会議で事務局が出した「タスクフォースにおける主な論点(案)」に「違法アップロードされた静止画のダウンロードを私的複製の対象外とする」という形で最初から入ってきた。実は米国は日本政府に対して、デジタル環境下では私的複製の範囲を限定せよという要求を2000年の時点で行っていた。そして2010年に、音楽と動画に限って違法にアップロードされたファイルをそれと知りながらダウンロードする行為を違法にした(いわゆる違法ダウンロード違法化。詳しくは拙著『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』第4章)。それからさらにわずか2年後の2012年には、多くの専門家の危惧に耳を傾けることもなく、業界団体のロビイングを受けた議員立法によって、違法ダウンロードのうちの一部の行為を刑事罰の対象にした(詳しくは拙著『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』第3章)。実は米国は、違法ダウンロード違法化を音楽と動画に限らず、すべての種類の著作物に拡大するよう、2011年に日本政府に要求している(詳しくは拙著『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』第1章)。静止画ダウンロード違法化が論点にあがった背景にはこれもある。

 米国の要望が、日本の立法にはたしてどれだけの影響を及ぼすものなのだろうかとの疑問はあるだろう。おなじように米国から要望されつづけ、実現してしまいそうなことに著作権保護期間延長がある。保護期間延長は国内に根強い慎重論があり、ずっと棚上げにされていた。TPP交渉で米国から再び延長を迫られた結果、国内からの危惧の声と議論の積み重ねを無視して協定を結んだ。そして他国に率先して法改正をし保護期間を延長したものの、肝心のTPPから米国が抜けて改正法の施行が宙に浮いていた。そんななか、EUとの経済連携協定のなかに保護期間延長を目立たぬように潜ませ、TPP11で延長義務がなくなったにもかかわらず、その批准のための法改正のなかで延長を再び決めてしまった。このように日本の著作権法は、もはや米国に忠実であらんがために変えられる状況に陥っている。

 そんななか、静止画ダウンロード違法化はブロッキングによらない海賊版対策として、ブロッキング反対派を含む複数の委員が支持した。しかしそれを危険視する声もあった。音楽と動画に限った違法ダウンロードを違法化・刑事罰化にしたときも、はたして実効性があるのか、インターネットの利便性が損なわれる、個人が家庭内で行う行為に公権力を及ぼすことには抑制的であるべきだ、といった意見があった。

ネットユーザーにとっては、写真やイラストをダウンロードして私的に使用するのは日常的な行為といえる。それを違法にしてしまうと国民生活への影響があまりに大きい。そもそも、問題になったマンガ海賊版サイトはストリーミング配信であり、静止画のダウンロードを伴わない。しかし、検討会の中間まとめ(案)には、それらに留意しながらも、「直ちに検討を行うことが適当」(40頁)と書かれてある。

 こうしたことを踏まえると、ブロッキング法制化によらないマンガ海賊版対策のひとつとして、著作権法を改正して、違法にアップロードされた静止画をそれと知りながらダウンロードすることを違法にしたり、刑事罰をつけたりすることが、これから検討されることになるのかもしれない。

静止画ダウンロード違法化は、これだけ取ってみれば大問題なのだが、それでもブロッキングよりはマシだといった論理がまかりとおるのだろうか。





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2018年10月20日土曜日

滋賀と北海道の評論書の有害指定問題のその後

今年3月に滋賀県で『あの日のエロ本自販機探訪記』が、北海道で『エロマンガ表現史』が有害図書に指定をされて以降、地方議員の方々や、関係諸団体の皆様や、記者さんたちに、色々と情報提供をさせて頂くなど、継続してお話をさせて頂いてきたのですが、指定から半年が経過して、少しずつその働きかけが実を結んできたのかなと思っております。

ありがたいことに、8月に北海道新聞さんが社説で、このような有害指定は行き過ぎではないかとの問題提起をしてくださり、
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/219743

また、9月には図書館問題研究会さんから、
http://tomonken.sakura.ne.jp/tomonken/statement/yugaitosho/

10月には日本マンガ学会の理事会の方々からも声明が出されました。
http://www.jsscc.net/info/130532

北海道議会でも、赤根広介議員と安住太伸議員から、予算特別委員会において、今回の有害指定の問題点を指摘する質疑をして頂くことができました。
10月3日 赤根広介議員
10月5日 安住太伸議員


なかなか一朝一夕に解決をすることは難しく、地道な論点整理や情報提供を続けることで、少しずつ色々なところに間接的に働きかけていくしか方法がない問題ではありますが、性表現や性表現規制に関係する評論書にまで安易に有害図書指定の範囲が拡大していかないよう、引き続き活動をしていきたいと考えております。


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