2019年4月4日木曜日

児童ポルノ選択議定書ガイドライン草案に対するCBLDFからのコメント(仮訳)

 国連児童権利委員会が、2019年2月~3月にかけてパブリックコメントを募集した「児童ポルノ選択議定書の実施に関するガイドライン草案」について、米国コミック弁護基金(CBLDF)が提出したコメントの仮訳を以下に掲載します。(英語の本文はこちらです)



2019年3月29日

OPSCの実施に関するガイドライン草案へのコメント

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書(OPSC)の実施に関するガイドラインの草案について、我々にコメントを提供する機会を与えて下さりありがとうございます。

Comic Book Legal Defense FundCBLDF)は、コミックメディアと、それを使用するクリエイター、小売業者、配給業者、出版社、司書、教育者、および読者のコミュニティの、合衆国憲法修正第1条に基づく権利について擁護することを目的としたアメリカの非営利団体です。

私たちは、子どもたちを搾取や虐待から守るためのあらゆる努力を称賛します。このガイドライン草案には、これらの目標を達成するのに役立つ可能性がある多くの側面があります。しかしながら残念なことに、このガイドライン草案には別の側面があり、私たちの懸念する方法によって、創作表現と犯罪行為とが混同されてしまっています。

61項では、児童ポルノの定義に、「絵や漫画」、「デジタルメディアの表現」、「印刷物またはオンラインで書かれた資料」などの表現内容が含まれると主張しています。 この主張は、合衆国最高裁判所が、New York 対 Ferber 判決において、児童ポルノを規制する政府の理論的根拠は、特に虐待記録を一掃し、そのような虐待記録を市場から根絶することによって、実際の子供を保護する点にあると述べたこととは対照的です。同じく合衆国最高裁は、Ashcroft 対 Free Speech Coalition において、児童ポルノの定義は絵や漫画などの創作的な画像には及ばないとの判決を下しています。政府にとっての切実な関心事は、実際の未成年者を虐待から保護することであって、創作表現を犯罪化することではないのです。

62項では、「締約国に対して、あらゆる形態の児童の性的虐待の素材を法律で禁止することを要請する」としています。CBLDFが弁護支援を行ったカナダでの訴訟 R.対 Matheson では、犯罪歴のない25歳のアメリカ市民が、誤って児童ポルノと定義されてしまった創作物のアート作品とともにカナダに入国したとして、起訴されました。事件が裁判所で解決するまでの2年間、彼は仕事や教育のためにインターネットを使うという権利すらも失いました。最終的に起訴は取下げられましたが、それはマセソンが訴訟費用ための数万ドルの借金を抱えてしまった後のことでした。U.S.対 Handley 事件では、政府は、わいせつな児童ポルノであると主張して、創作物のコンテンツを所持していた39歳の退役軍人であるクリストファー・ハンドリーを起訴しました。ハンドリーは裁判で争うことなく司法取引に応じました。彼には犯罪歴はなく、いかなる種類の実際の実写ポルノも持っていませんでした。判決文において、政府は、アダルト・コミック本の単なる所持が、刑務所での心理的治療と監視を続けることを必要とする「性的逸脱」の一類型に該当すると主張しました。これらの訴追は、実際の未成年者を保護するという結果にはなりませんでした、その代わりに、創作物のコンテンツの所持を理由に、コミュニティに脅威を与えない個人を罰したのです。

 パラグラフ63は、"委員会は、「疑似的な性的行為」には、オンライン・オフラインを問わず、現実または擬似的に露骨な性的行為に従事する子どもと見受けられるあらゆる人物の描写もしくはその他の方法によって表現したもの、および性的に露骨な活動に従事する子どもの写実的ないしはバーチャルな描写を含む、と解釈すべきであるとの見解である。そのような描写は子どもを性の対象として見ることを常態化することを促し、子どもの性的虐待物の需要を促進する。" と述べています。最後の一文の主張には論拠の欠如があります。創作コンテンツは現実ではありません。創作コンテンツでは、セクシュアリティ、暴力、犯罪行為に関するタブーが常に探求されてきました。近年の創作コンテンツをめぐる歴史においては、この委員会で採用されたのと同じメディア効果論の議論と関連したモラルパニックの周期が見られます。歴史的に、そのようなメディア効果の議論は疑わしいことが示されてきました。アメリカでは1950年代になると、少年非行の原因として漫画本が調査対象となり、メディア・コンテンツを揺るがすようなモラルパニックのプロモートが行われた結果、読者が大幅に減り、数千人のクリエイティブな専門家が仕事を失うことになりました。政府の最終報告とその後の学術的調査は、そのような関連性がないことを証明しましたが、それは弊害が出る前ではありませんでした。ごく最近では、社会における暴力の常態化と永続化に因果的な影響があるものとして、ビデオゲームが位置づけられています。ブラウン対EMAでは、合衆国最高裁判所は暴力的なビデオゲームを規制しようとする法律を無効にし、憲法違反であると判断しました。この事件では、社会科学研究を含むメディア効果仮説が裁判所に持ち込まれました。裁判所は、それらの研究について、因果関係ではなく相関関係のみを示すことを目的としたものであり、「せいぜい」彼らは「暴力的エンタテイメントへの接触と、非常に小さな現実世界への影響との間に、ある程度の相関関係」を示しただけであると認定しました。現実の人生の厄介な側面を描こうとするメディアの存在について、それらの否定的な実生活の行動を促進したり常態化したりするものであると提示してしまうことは、危険かつ不正確です。

ここまでの段落で説明したような方法による創作コンテンツの訴追は、最終的に、実際の被害者の保護から、いかなる児童虐待も犯していない創作コンテンツの読者や配給者の訴追へと転用されることでしょう。

以上のような懸念をかえりみず、児童ポルノの定義と訴追対象を、創作物の芸術作品や文章を含むものに拡大することは、非常に広い合法的な言論空間をも危険にさらします。ヤングアダルト向けフィクションは、セクシュアリティを日常的に取り扱っています。なぜなら、それはヤングアダルトの読者たちにとっての今の関心事であるからです。虐待サバイバーによる回顧録は、癒しのプロセスの一側面として、虐待の情景の詳細をしばしば描写して説明します。芸術と写真の主流作品は、未成年者が描かれた作品を含むヌードが探求され、描かれ、そして記述されてきた、一連の美術史の中に存在します。これらの合法的に探求されてきた分野のすべてが、本ガイドライン草案に含まれる政府への検閲の要請と、提案される法律が採用された場合に生じるだろう萎縮的効果による自己検閲によって、危険にさらされることになるのです。

児童権利委員会と世界中の政府が、児童の性的虐待を抑制するための行動をとっていることは称賛に値します。いかなる場合も、私たちの努力は、自由な表現を制限することではなく、本当の子供を守ることに向けられなければなりません。

これらのコメントをご検討いただきありがとうございます。


敬具

チャールズ・ブラウンスタイン
事務局長