刑法学者の園田寿先生(甲南大学教授)が、児童ポルノ禁止法改正案の「所持規制」について、コメントを寄せて下さいました。
加筆・修正版がYahooニュースに掲載されました。
ぜひそちらの方をご覧くださいませ。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/sonodahisashi/20140424-00034758/
■1■「みだりに」の文言
「みだりに」とは、「故なく」とか「正当な理由なく」といったような意味で使用される法律用語ですが、非常に曖昧な運用を許す言葉です。
たとえば、マンション玄関の郵便受けに反戦ビラを配るために、マンションの玄関に立ち入った行為が建造物侵入(正当な理由のない立ち入り)に当たるといった判例があります。
この改正案が通れば、出版社や書店、流通は、自らの在庫を総点検することが求められることになると思います。これは、罰則がなく、努力規定といった体裁になっていますが、事実上、かなりの強制力をもった強烈な規定になると思います。定義には変更がありませんので、適用次第によっては、表現・出版の自由に対する大きな侵害になりうる規定だと思います。
■2■「自己の性的好奇心を満たす目的で」の文言
この文言も行為を限定する機能はないと思われます。
確かに、一般的には「目的」を入れることによって行為が限定されることはあります。たとえば、通貨偽造罪は「行使の目的で」(使用するつもりで)偽札を作った場合を通貨偽造罪として重く処罰していて、「行使の目的」がなければ特別法で軽く処罰しています。このように、目的規定があることによって行為が限界づけられることはあります。
しかし、このような目的犯には実は2種類あるのです。
たとえば、刑法92条に外国国章損壊罪という犯罪があります。
刑法第92条 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
これも目的犯です。しかし、この場合の目的は行為を限定する機能はありません。客観的に外国の「国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した」者は、その内心では外国を侮辱する目的があったと認定されるのです。これと改正案はまさに同じものだと思います。しかも、定義がそのままですので、運用によっては大変恣意的で、おそろしい運用の危険性があります。たとえば、ある人がいわゆるグラビアアイドルの写真集を何冊かもっていたとします。この場合は、それが3号ポルノに該当すると判断されれば、それを持っていることじたいが、「自己の性欲を満たす」ためであると客観的に評価されることになります。
そもそも「児童ポルノ」の問題性はここにあるわけで、本来、人の心の中は外からは分からないわけですが、児童ポルノはその人の心の中を証明する情況証拠なのです。児童ポルノを所持していたという事実から、その人が児童を性の対象として見ているという性癖が「証明され」、そして社会的に糾弾されることになるのです。この点が一番問題だと思います。