報告者:白田秀彰 (法政大学社会学部 准教授)
(写真提供:マンガ論争編集部)
日時: 2015年06月14日(日) 18時30分から
場所: 文京シビックセンター26階・スカイホール
内容:
著作権のあり方とキャラクターの表現の類似性の問題について、調査研究を行っている法政大学の白田秀彰准教授をお招きして、現在行っている実証研究の中間報告をして頂きました。
【報告者:白田秀彰氏より】
マンガ・アニメ・ゲームを主題とした二次創作同人誌は、一般的な認識として、何らかの形態で著作権を侵害しているものと評価されている。こうした一般的な認識があるため、法の改正や侵害規定の変更で、取り締まりが強化されるという懸念を生んでいる。たとえばTPPに伴って非親告罪化されれば、著しく取り締まりが強化されるといった主張である。
ところが、著作権の判例や学説をみると、著作権の侵害は、特定の部分ではなく全体的な類似性で評価されるべしとされており、あるいは創作性のある部分のみが保護され、事実の記述や平凡な表現が類似していても侵害ではないとされている。また、画風や作風は保護の対象ではなく、具体的な表現ではないアイデアもまた保護の対象ではないとみるのが通説である。
すると、二次創作同人誌は、原作から逸脱した物語に原作とは別の構図やポーズの絵を組み合わせて制作されているのだから、そもそも著作権を侵害したことにはならないと考えるべきである。しかし、そのように一般に認識されていない理由は、原作の「世界観」や「キャラクター」を用いているからであると考えられる。ところが「世界観」はまさにアイデアであり、これを著作権で保護することは困難であろう。また「キャラクター」については著作権の保護が及ばないことが通説である。とすれば、二次創作同人誌は本質的に著作権侵害にあたらないことになる。
この問題点に気が付いている一部の実務家や研究者は、絵画表現としての「キャラクター」に対して著作権の保護を及ぼすべきことを主張している。その立論には一定の説得力があると考える。とはいえ、それは原作の「キャラクター」を用いた場合である。二次創作同人誌で描かれている「キャラクター」が、そもそもオリジナルと似ていなければ、「原作へのアクセス」と「原作との類似」で侵害となるとする著作権法の原則から考えて、侵害に当たらないと考えるべきだろう。
こうした問題意識を背景にして、2012年から2014年まで、一般の人がマンガ・アニメ・ゲームキャラクターの人物表現に対して、どのように「似ている・似ていない」を判定し、またそれはどのような傾向を持つのかを調査してきた。その結果、調査用に準備したキャラクターのイラスト群に対して、一般的な傾向が存在することが明らかになった。2015年では、この一般的な傾向と合致する類似判定を行う調査員を10名程度集め、さらに類似判定に関する調査を継続する予定である。
本報告会は、2014年までの研究の成果概要について報告し、関心のある諸氏と意見交換し、また、2015年調査のための調査員選抜のためのアンケートを実施することを目的としている。性質上、アンケートは報告会に先だって行われる。拘束時間は30分ほどを予定している。このアンケートには謝金が支払われる。一般的な類似性判定傾向をもつとして選抜された被験者には、調査員として業務の委託を依頼する予定である。この業務の期間は、8月24日~9月12日のうち任意の三日を予定している。 (白田秀彰)
参照:
コンテンツの創作・流通・利用主体の利害と著作権法の役割