2013年7月31日水曜日

抄訳:The World of ‘Minority Report’ Lived in South Korea

The World of ‘Minority Report’ Lived in South Korea

朴景信 (高麗大学 教授/大韓民国放送通信審議委員)
(抄訳 NPO法人うぐいすリボン)


2012年に、韓国警察が児童性犯罪に関連して捜査に着手した事件は、全部で2224件ある。その前年に比べて22倍に増えている。件数も驚きだが、捜査対象者の相当数が女性という点が、より驚くべきである。何が起こったのだろうか。


2012年に調査対象となった2224人の「児童性犯罪」容疑者】
2011年に韓国では、子供を対象とした強姦殺人事件が相次いで発生し、報道が集中して、社会に衝撃を与えた。このような雰囲気の中で、国会は、児童ポルノ関連規定を改正し、児童·青少年に明らかに認識することができる人や表現物が登場し、性行為やわいせつ行為をした内容の表現物までが、規制対象に含まれることになった。
日本で製作され、韓国でも広く見られているポルノの多くは、大人の俳優やアニメのキャラクターが未成年者と設定されて登場する。あるいはプロットはそうなっていないのに、韓国警察の目にだけは、登場人物が未成年に見えるようだ。
2012年に調査対象となった2224人は、ほとんどが20代前半で、この「児童·青少年の性保護に関する法律(アチョン法)」に基づいて、「児童性犯罪者」として捜査を受けて、その多くが実際に児童性犯罪で起訴された。有罪判決を受けた人々は、20年間居住地を警察に登録しなければならないし(アチョン法50条)、児童·青少年関連機関等への就職も10年間制限するという罰則が与えられる(アチョン法56条)。
これは、実際の子供を誘惑してカメラの前に立たせてポルノを撮影した犯罪者の量刑と同じものであり、19歳以上に見えるアニメのキャラクターや俳優を登場させて製造した一般的な猥褻物を流布する犯罪の処罰よりも、はるかに厳しいものとなっている。



【児童ポルノ禁止法の目的】
児童ポルノ禁止法の目的は、未成年者が性行為や類似性行為に参加している様子を視覚的に記録する行為を刑法上の犯罪と規定し、これを禁止するものである。これは、未成年者本人の意思とは関係なく、そのような映像を製造すること自体が、その未成年者の精神に回復不能な損傷を与えるという認識をベースにしている。また、この法は、実際の性行為をする姿に未成年者の顔写真が単に合成された映像も規制対象に含んでいる。
これらの映像が多くの人に配布されると、顔写真が使われた未成年者は、実際のポルノの場合と同様に、心理的な損傷を負い、社会的評価においても被害を受けることになるからである。さらに、このような被害を発生させるのは写真だけではない。イラストや絵画の場合も、実際の子供を特定できるほど写実的に描写された場合には、実在の子供は同じ被害を受けることになる。


【世界に類を見ないアチョン法、 "吸血鬼の年齢は何歳か?】
世界でも類を見ない韓国のアチョン法は、興味深い結果をもたらした。アニメのキャラクターと関連した事件の裁判で、弁護士は「もし性的な表現物に登場する架空の主人公の年齢をもとにして処罰をすると言うと、例えば、擬人化された動物、宇宙人、もしくは、100歳を超えている設定の吸血鬼などの年齢は、どのように特定することができるのだろうか?」と主張した。これを聞いた裁判官は、事件を児童ポルノ事件からわいせつ事件へと変更した。
この場合、量刑は最大1年の刑に大幅に減ることになる。つまり、この法律は、非実在青少年の被害を処罰するという点に対応しようとしても、非実在青少年の年齢を測定することが容易でないため、適用が難しくなるのだ。

警察官たちは、実際の犯罪者を追跡するよりも、コンピュータの前に座って、はるかに多くの時間を過ごしている。実在の子供を利用してポルノを作った業者を追跡して逮捕するよりも、ポルノのファイルをアップロードする人々を捕まえている方が、はるかに簡単だからである。


【過度な処罰と実効性の議論:号泣する若者、 "本当の犯罪"なおざりにする警察】
もう一つの悲惨な結果がある。この法律は、多くの若者を犯罪者にしてしまうという点である。 2012年に摘発された2224人のほとんどは、大人の俳優が学校の制服のような衣装を着て出てくる日本のアダルトビデオをアップロードしたために逮捕された(実際には意図的なアップロードではなく、トレンドファイルを共有フォルダにダウンロードし、自分も知らないうちにアップロードしていた場合だ 。大学生、または大学を卒業した彼らは、今後1020年の間に就職が制限されたり、性犯罪者として警察に個人情報登録をする必要があるという現実の前で泣いている)。
著作権侵害されたアニメーション等をアップロードすることは、貧しい若者の間で、残念ながら通常のことである。そのような状況で、法は、多くの若者の将来の希望を奪わないよう注意しなければならない。
また、この法律は、多くの若者から職業を奪った。すなわち、法は、日本から制作発注されるアニメーション産業を犯罪化することで、韓国におけるアニメ関連産業を砂漠化させてしまった。

子供時代にレイプ被害にあったある女性は、最近のテレビ番組で、「私の経験では、子供に対する性暴行事件を起こすのはポルノではない。ポルノの有無にかかわらず、そのような嗜好を持った人物がそのような犯罪を行う。当局は、インターネットを監視してばかりいるのをやめて、外に出て本物の犯罪者を捕まえるべきだ」と述べた。
実在児童と非実在児童に同じように適用される法律条項のために、出世の点数が目的の警察官たちは、実際の犯罪を減らすことに貢献するよりも、サイバー世界で道草をしているのだ。

20135月にビョン・ミンソン裁判官はアチョン法に関する違憲法律審判を提請した。 6月には高等裁判所の裁判官が "制服モノ"のアダルトビデオをアチョン法から除外する判決を下した。アチョン法容疑をわいせつ容疑に訴因変更するよう要求する裁判官が増えると同時に、検察が起訴猶予処分を下して事件を終了させてしまう事例が増えている。これは、その容疑者が他の犯罪によって捕まらない以上、その犯罪では永久に処罰されないことを意味している。

私は、子供がレイプされる姿を体の部分部分まで赤裸々に描いたような日本のアニメについては嫌悪感がある。全ての人に公開されたサイバースペースにこのような表現物を陳列する人々は処罰されるべきだと思う。しかし、何の容疑を適用するべきだろうか? 児童ポルノではなく、わいせつの罪でなければならない。その違いがなぜそれほど重要なのか? それは、ただ、その量刑が大きく異なっているからだけではなく、表現の自由の砦を強固にする明確な基準がないからだ。すなわち、「明白かつ現在の危険」の原則を守り、言行を分離して規制するための基準がないからである。


【想像を現実行為と同じように処罰すると、次の供物は…】
想像を描写した日本のアニメは、そのような想像が現実に起きた場合を規制する法の規定によって処罰されてはならない。麻薬や殺人が過度に描写された映画があれば、市民の感受性を保護し、さらにそのような犯罪に対する警戒を強化するために規制をかけることもあるだろう。しかし、このような映画を麻薬取引や殺人の罪で処罰してはならない。

ファンタジーの表現を、それが実際に行われたかのように処罰した場合、事態は手に負えなくなる。人々の想像力を抑圧しようとする強硬派は、捕鯨船を襲撃する環境主義者や、武器取引の船積みを行う国家転覆主義者を描いた創作映像を、次の生け贄にしようとするだろう。




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